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【読書感想文】西加奈子『地下の鳩』レビュー|共感できなかったけど、読書について考えさせられた一冊

元気ですか〜!?

どうも、ろけねおです。

今回ご紹介いたします本は、西加奈子さんの書かれた大阪を舞台にした物語です。

地下の鳩

このところ、ボクの読書生活は西加奈子さんの作品に偏っています。どの作品も心に響くものがあり、すっかりファンになっていました。だからこそ、最新作(当時)の『地下の鳩』にも大きな期待を寄せていたんです。

しかし、正直に言うと、今作はこれまでの作品ほど夢中にはなれませんでした。今回は、なぜボクがこの物語にハマりきれなかったのか、その理由を正直に振り返ってみたいと思います。

西加奈子『地下の鳩』とは?

まずは、この本がどんな作品なのか、基本的な情報からご紹介します。

本の基本情報

  • 出版社:文藝春秋
  • 発売日:2011年2月25日
  • ページ数:237ページ

『地下の鳩』のあらすじ

物語の中心となるのは、キャバレーで客引きをする40代の男性・吉田と、夜の街について右も左もわからない素人感あふれるスナックの新米チーママ・みさをです。吉田は自分が昔のように若くてイケていると信じていますが、現実とのギャップを痛感しています。みさをは、子どもの頃から他人に期待される役割を演じてきたため、本当の自分がわからなくなっています。

そんな2人が出会い、やがて淡い恋愛感情や依存のような関係が生まれていきます。大阪ミナミという雑多な都市空間のなかで、「地下の鳩」と呼ばれる存在(鳩は平和の象徴でありつつも、都会の影に潜むものでもある)が、登場人物たちの孤独や切なさを象徴しています。

ボクが『地下の鳩』にハマれなかった理由

期待値が高かった分、少し物足りなさを感じてしまった今作。

その理由を、ボクなりに3つのポイントで掘り下げてみます。

理由1:登場人物に感情移入できなかった

小説を読む上でボクが一番苦労するのは、登場人物の名前とキャラクターがなかなか一致しないことです。

しかし今作では、登場人物に「棚橋」「永田」「秋山」といった、プロレスラーと同じ名前が使われていました。

おかげで、キャラクターの顔はすぐに棚橋弘至選手、永田裕志選手、秋山準選手でインプット完了。

これはすんなり物語に入れるぞ、と嬉しくなりました。

もしかしたら主人公の「吉田」も、長州力選手の本名(吉田光雄さん)から取られているのかもしれない、なんて後から気づいたり。

このプロレスラーたちの名前のおかげで、「彼らがどこかで活躍するのでは?」という期待感が生まれ、最後まで読み通すモチベーションになりました。

もしこの仕掛けがなかったら、途中でギブアップしていたかもしれません。

プロレスパワー、恐るべしです。

しかしながら、肝心の主人公である少年・吉田やホステス・秋山に、ボクは最後まで自分を重ねることができなかったのです。

「なんでそんな風に考えるんだろう?」

「なんでそんな行動をしてしまうんだろう?」

共感できるポイントを探しながら読んだのですが、彼らの思考や行動に「なぜ?」が渦巻いてしまい、物語の核に触れることができませんでした。

理由2:二部構成を活かしきれなかった

この作品は、前半と後半で視点が変わる二部構成になっています。

きっと、前半を読んだ後に後半を読み、さらにもう一度前半に戻ることで、点と点が繋がり、物語の全体像が深く理解できる仕掛けなのでしょう。

西加奈子さんの『通天閣』を読んだ時のような、身体の奥から感動が押し寄せてくる瞬間を、今作でも期待していました。

しかし、ボクは一度読み終えた後、前半を再読する気持ちにはなれませんでした。

それは、一度目の読後感が、感動というよりは「ただただ寂しく、悲しく、暗い」ものだったからです。

再読すれば違う景色が見えると頭では分かっていても、心がそれを求めませんでした。

ボク自身が、この物語の本当の面白さを味わうチャンスを逃してしまったのかもしれません。

理由3:大阪が舞台である必然性を見出せなかった

物語の舞台は大阪の心斎橋。

ボクも時々訪れる街です。

だからこそ、街並みや人々の描写は非常に生々しく、情景が目に浮かぶようでした。

「今度、心斎橋駅に行ったら鳩を探してみよう」とすら思ったほどです。

この、ノンフィクションのようなリアルな感覚は、西さんの作品の大きな魅力だと思います。

しかし、物語を読み終えて感じたのは、「この話は、たまたま舞台が大阪だっただけではないか?」ということでした。

飲み屋がひしめき合う繁華街であれば、日本のどこであっても成立する物語のように思えたのです。

ボクが、この物語における「大阪であることの意味」を発見できなかったのも、ハマれなかった一因かもしれません。

ボクの経験不足が、面白さを半減させたのかも

ここまで「合わなかった」理由を書いてきましたが、これは決して「つまらない本だ」と言いたいわけではありません。

むしろ、ボク自身の知識や経験の不足が、面白さを感じるための障壁になったのだと感じています。

物語の中心となるのは、水商売の世界やニューハーフの世界です。

ボクはそういったお店にほとんど行ったことがなく、そこで生きる人々の感覚がまったく想像できませんでした。

特別な世界に生きる人々の物語だと、どこかで決めつけて読んでしまったのかもしれません。

もっと多様な世界に触れる経験があれば、主人公たちの行動原理や心の機微を、より深く理解できたのではないかと反省しています。

小説を最大限に楽しむためには、自分自身も積極的に色々な世界を体験しておくべきなのかもしれないな、と考えさせられた一冊でした。

『地下の鳩』はどんな人におすすめ?

ボクには少し難しかったこの作品ですが、以下のような方なら、きっと楽しめるのではないかと思います。

こんな人なら楽しめるかも!

  • 人間の孤独や心の闇をテーマにした、ビターな物語が好きな方
  • 大阪の繁華街の雰囲気が好きな方
  • 簡単なハッピーエンドではない、余韻の残る小説を読みたい方
  • 一度読んだだけでは終わらない、考察しがいのある作品を求めている方

逆に、ボクのように「主人公に共感しながら物語を読みたい」「読後にスッキリしたい、元気になりたい」という気分の時には、少し合わないかもしれません。

西加奈子さんの他作品との比較

同じく舞台を大阪の街になっている物語ではありますが、個人的にはこの『通天閣』のほうが大阪らしさが色濃く出ているように感じました。

特に大阪に思い入れのない人は影響はないんでしょうけども、大阪色が濃いほうがボクには物語が入ってきやすくなりました。

大阪色がなくてもしっかり滲みる物語もありまして、それが『きいろいゾウ』です。

結婚してる方は特にグッと来るんじゃないかと思います。

『地下の鳩』は特殊な世界の話になっていますが、こちらはここまで特殊ではありません。

正直な感想と、小説を楽しむということ

今回は、西加奈子さんの『地下の鳩』にボクがハマれなかった理由を正直に書かせていただきました。

この本は、万人受けするエンターテイメントというよりは、読む人を選ぶ、少し玄人向けの作品なのかもしれません。

ボクにはまだ、この物語の真価を理解するだけの人生経験が足りなかったようです。

それでも、プロレスラーの名前が出てきたり、馴染みのある大阪の街並みが描かれていたりと、楽しめる部分もたくさんありました。

なにより、「自分はなぜこの物語を面白いと感じられないのだろう?」と考えることで、自分自身の価値観や読書スタイルを見つめ直す良い機会になりました。

もしあなたがこの本を読んで「すごく面白かった!」と感じたなら、ぜひその理由を教えてほしいです。

そんな風に、誰かと語り合いたくなる一冊でした。

それではまた。

ありがとう!

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