元気ですか〜!?
どうも、ろけねおです。
今回ご紹介いたします本は、西加奈子さんの書かれた大阪の匂いがプンプンする本でございます。
通天閣
普段、ボクは小説をほとんど読みません。
ミステリーやSFも、話題のベストセラーも、なかなか手に取る機会がないのが正直なところです。
しかし、そんなボクにも、新作が出ると必ずチェックする作家さんがいます。
それが、西加奈子さんです。
※たとえばこの作品の感想を書いております。
なぜ西加奈子さんの作品を読むのか
その理由は、とてもシンプル。
何を隠そう、西加奈子さんが大のプロレスファンだからです。
「プロレスが好き」という、ただそれだけの共通点。
それだけで、「きっとこの人は自分と同じところで笑い、同じところで涙を流せる人に違いない」と、勝手に親近感を抱いてしまうのです。
※もちろん、プロレスファンと一括りに言っても様々な方がいるのは承知の上ですが、そう信じたいボクがいます。
そんな西加奈子さんが紡ぐ物語なら、絶対に面白いはずだ。
そんな期待を胸に、直木賞受賞作である『通天閣』を手に取りました。
西加奈子著『通天閣』とは?
著者(西加奈子)について
1977年、テヘラン生まれ。2004年『あおい』(小学館)でデビューし、05年、『さくら』(小学館、のちに小学館文庫)がベストセラーになる。07年、『通天閣』(筑摩書房、のちにちくま文庫)で織田作之助賞を受賞。13年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞、15年に『サラバ!』で直木賞を受賞。他の小説作品に『きいろいゾウ』『しずく』『窓の魚』『炎上する君』『円卓』『漁港の肉子ちゃん』など。
作品(通天閣)について
- 出版社 : 筑摩書房
- 発売日 : 2009/12/9
• 文庫 : 272ページ
作品紹介
冬の大阪ミナミの町が舞台を舞台に、このしょーもない世の中に、救いようのない人生に、ちょっぴり暖かい灯を点す驚きと感動の物語。織田作之助賞受賞作。
津村記久子氏による解説
誰も彼もが、とにかくその一日一日をやり過ごすので手一杯である。夢を見ている時間はない。その有様が、克明に描かれれば描かれるほど笑ってしまい、同時に、世界の核心に触れたような気持ちになる。それらのどちらか、ではなく、どちらも、を達成しているところに、『通天閣』の稀有さがあると思う。
※以上アマゾンより引用
小説の世界との境界線が溶ける!不思議な読書体験
結論から言うと、この小説、最高に面白かったです。
大声で笑うような面白さとは少し違って、じわじわと、でも確実に心に染み込んでくるような、温かい面白さがありました。
ボクは普段、小説を読むとき、まるで映画を観るように、物語の世界を外から俯瞰で眺めていることが多いんです。
登場人物の誰かに自分を投影して、物語の住人になる、という経験はあまりありません。
ところが、この『通天閣』には妙なリアリティがあって、気づけば物語の中にどっぷりと入り込んでいました。「今ボクがいるこの現実こそが、実は小説の中の世界なんじゃないか?」と錯覚するほどに。
ちなみに、ボクは大阪で育ちましたが、新世界という土地に特別な縁もゆかりもありません。
それなのに、主人公の部屋が、まるでずっと昔から住んでいる自分の部屋のように感じられるのです。
実際のボクの部屋とは間取りも広さも全く違うのに、そこにはいつも使っているような安心感さえ覚えました。
これは、西加奈子さんの巧みな情景描写のなせる業なのでしょう。
小説の世界と現実の境界線が曖昧になる、ボクにとっては初めての不思議な読書体験でした。
こうなるともう、ページをめくる手が止まりませんよね。
まるでドキュメンタリー?クセが強い登場人物たちの圧倒的リアル
この物語のもう一つの魅力は、登場人物たちの圧倒的な「生々しさ」です。
まるで実際にモデルがいて、その人たちのドキュメンタリーを観ているかのようなリアリティがありました。
※モデルがいるかどうか知りませんが。
登場するのは、一癖も二癖もあるアクの強いキャラクターばかり。
でも、「ああ、大阪なら本当にこんな人たちがアッチコッチにいるんだろうな」と、何の違和感もなく思えてしまう説得力があります。
特に、主人公の一人である「俺」はボクと同年代ということもあり、彼の抱える劣等感や孤独感に、どこか自分を重ねて見てしまいました。
そうして親近感を覚えるほどに、物語への没入感はさらに深まっていきます。
主人公が感じる喜びや悲しみが、まるで自分のことのように胸に迫ってくる。
いつしかボクは、物語の傍観者ではなく、主人公のすぐ隣にいる登場人物の一人になったような感覚で、この世界を体験していました。
これが直木賞作家の筆力なのかと、ただただ圧倒されるばかりでした。
「汚くて、美しい」これぞ大阪!西加奈子が描く愛の形
この物語の根底に流れるテーマは、おそらく「生きること」と「愛すること」の無条件の美しさ、なのではないかとボクは感じています。
ただ、その描き方が一筋縄ではいかないのが西加奈子流。
普通、「美しさ」を描くなら、もっとキラキラと輝く、誰もが一目で美しいとわかるような表現をするはずです。
しかし、この物語は「大阪」という強烈なフィルターを通すことで、その美しさが一見、汚く、くすんで見えます。
でも、だからこそ、その奥にあるものが本物だとわかるのです。
人は誰しも、ただ懸命に生きているだけで、誰かを不器用に愛するだけで、美しく尊い存在なのだと。
この物語は、そんな当たり前で、でも忘れがちな真実を教えてくれました。
傍から見れば汚れているかもしれない日常の中にこそ、キラキラと輝く美しい世界が広がっている。
大阪という街の持つ、上品さとは少し離れた「ごちゃ混ぜ感」が、その本質的な美しさを際立たせているのかもしれません。
大阪で育ったボクにとって、この「汚さの中にある美しさ」が描かれたことは、自分の故郷へのプライドを肯定されたような気持ちになり、深く感動しました。
笑って、笑って、最後に号泣。感情を揺さぶる物語の結末
物語の大半は、登場人物たちのユニークなやり取りにクスリとさせられるのですが、最後に、怒涛の感動が押し寄せてきます。
決してハッピーエンドではありません。
悲しい結末に、ただただ切なくて涙が流れる場面もあります。
しかし、不思議と涙の成分のほとんどは、「良かった」という温かい感動なのです。
たくさん笑って心がほぐれた後に、最後は温かい涙で心を浄化される。
そんな極上の読書体験でした。
大阪人だからこそ、より深く共感できた部分もあるかもしれません。
他の地域の人が読んだらどう感じるのか、少し気になるところではあります。
もしかしたら、万人受けはしないタイプの作品かもしれません。
それでも、ボクにとっては間違いなく、人生で出会えて良かったと思える一冊になりました。
『通天閣』はこんな人におすすめ!
- 人間臭い物語が好きな方
- 笑って泣ける小説を探している方
- 大阪という街が好きな方、あるいは興味がある方
- 人生に少し疲れて、元気をもらいたい方
- 普段あまり小説を読まないけれど、何か面白い一冊に出会いたい方
生きるパワーをもらえる!不器用で愛おしい物語
西加奈子さんの『通天閣』は、小説の世界に没入するという不思議な体験と、登場人物への深い共感、そして大阪という街の持つ独特の魅力を存分に味あわせてくれる作品でした。
決して綺麗事だけではない、むしろ泥臭くて不器用な人々の日常。
しかし、そこには確かな「愛」と「美しさ」が息づいています。
読み終えた後には、明日を生きるちょっとした勇気と温かい気持ちが心に残るはずです。
面白い小説を探している方はもちろん、最近心が乾いているなと感じる方にも、ぜひ手に取ってみてほしい一冊です。
それではまた。
ありがとう!
