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【読書感想文】ブログの文章力を磨きたくて阿久悠『作詞入門』を読んだら、小説家のような思考法に行き着いた話

元気ですか〜!?

どうも、ろけねおです。

今回ご紹介いたします本は、作詞家の阿久悠さんのお書きになった本でございます。

作詞入門―阿久式ヒット・ソングの技法

ボクの人生は、阿久悠さんの作品と共にあったと言っても過言ではありません。

※ちょっと過言でしたか。

1972年生まれのボクにとって、物心ついた頃からテレビやラジオで流れていたヒット曲の多くは、阿久さんが詞を手掛けたものでした。

尾崎紀世彦「また逢う日まで」、沢田研二「勝手にしやがれ」、都はるみ「北の宿から」、八代亜紀「雨の慕情」。

そして、日本中を熱狂させたピンク・レディーの一連のヒット曲「UFO」「サウスポー」……。

まさに阿久さんのヒット曲を「浴びて」育った世代です。

これらは今聴いても色褪せない、素晴らしい詞ばかりだと感じています。

実はボクも若い頃、バンド活動の中で楽曲制作に携わり、作詞をする機会がありました。

その時から、漠然と「阿久悠さんのような詞を書きたい」という憧れを抱いていました。

情景が鮮やかに浮かび、短い言葉で人の心を掴む。

そんな表現に強く惹かれていたのです。

そして何より、ブログを運営している「今」。

ボクの中で最も強くあるのは「文章力を磨きたい」という渇望です。

阿久悠さんが培ったヒット・ソングの技法。そのエッセンスを学べば、ボクのブログの文章表現も、もっと豊かに、もっと読者の心に届くものになるのではないか。

そんな淡い期待を胸に、この『作詞入門―阿久式ヒット・ソングの技法』という本を手に取りました。

昭和のヒットメーカー・阿久悠とは

まずは本書の概要と、著者である阿久悠さんについてご紹介します。

著者について

阿久悠さん(1937-2007年、本名・深田公之)は、兵庫県淡路島出身の作詞家、小説家です。

明治大学文学部を卒業後、広告代理店に勤務し、番組企画やCF(コマーシャルフィルム)制作に携わりました。

その後フリーとなり、作詞を中心とした文筆活動に入られます。

作詞家としての生涯作品数は5,000曲以上。

そのうちヒット曲は数知れず、『また逢う日まで』『津軽海峡・冬景色』『北の宿から』など、多くの代表作が日本レコード大賞を受賞しています。

また、文筆家としても『瀬戸内少年野球団』などの小説で高い評価を受け、1997年に菊池寛賞、1999年に紫綬褒章を受章されるなど、まさに昭和を代表する「言葉の巨匠」です。

本書の商品情報

  • 出版社: 岩波書店
  • 発売日: 2009年9月16日 (岩波現代文庫)
  • ページ数: 280ページ
  • ISBN-13: 978-4006031923

本書は、阿久悠さんが1972年に発表した内容をベースに、後年の論考なども加えて再編集されたものです。

「入門書」への期待と、その中身

さて、タイトルが『作詞入門』で、サブタイトルに「ヒット・ソングの技法」とあります。

ボクは当然、作詞の具体的なテクニック、例えば「サビの作り方」「AメロとBメロの構成」「フックになる言葉の見つけ方」といったノウハウが満載の本だと期待していました。

しかし、読み始めてすぐに「あれ?」っとなります。

結論から言うと、本書に具体的な「技法」について書かれている部分は、ほんのわずかです。

そういう意味では、ボクの期待は少し裏切られた、というのが正直な感想でした。

もしボクがこの本に正確なタイトルを付けるとしたら、『作詞家入門』あるいは『阿久悠・作詞哲学』といったものになるでしょう。

作詞の「仕方」というよりも、阿久悠さんがいかにして「作詞家・阿久悠」という唯一無二のブランドを構築してきたか、その思想と戦略について語った本だったのです。

1972年という「時代」の大きな壁

この本が主に書かれたのは1972年。

この時代背景が、現代の読者であるボクたちとの間に大きなギャップを生みます。

今でこそ、アーティストが自分で曲を作り、自分で詞を書いて歌う「シンガーソングライター」が主流です。

バンドがデビューするなら、メンバーが作詞作曲するのが当たり前になっています。

しかし、1972年当時は全く状況が違いました。

歌手は歌う専門。

そして、作詞家、作曲家、編曲家という専門家たちが集まり、「こういうイメージの歌手を、こういう戦略で売り出そう」と話し合い、それに沿って楽曲を「制作」していたのです。

作詞家は、そのプロジェクトの根幹となる「コンセプト」や「世界観」を言葉で提示する、非常に重要な役割を担っていました。

阿久さんはまさに、その「歌謡曲システム」の頂点にいたヒットメーカーだったわけです。

本書で語られる「作詞家」の役割は、現代のそれとは重みが全く違う。

この時代の違いを痛感させられました。

読み進めて感じたこと

作詞家になるつもりはなく、阿久さんのようにオシャレで深みのある文章が書きたい、という動機で読んだボクのような人間には、少しミスマッチな本だったかもしれません。

そもそも、「作詞家」という職業を目指す人自体、現代では稀有な存在になっているのではないでしょうか。

25年の時が流れる文体

本書は、主に1972年に書かれた前半部分と、1997年に発表された『僕の歌謡曲論』が収録された後半部分で構成されています。

つまり、この一冊の中には25年という長い時間が流れているのです。

これが非常に興味深く、前半の、若き日の阿久さんが書いたであろう部分は、どこか力強く、少し硬い印象を受けます。

一方、後半の文章は、達観したような、非常に柔らかく丸みを帯びた文体になっているのです。

阿久さんの作品は、1980年頃から徐々にヒットチャートを賑わさなくなっていったそうです。

時代がシンガーソングライターやニューミュージックへと移行していく中で、ご自身も様々な葛藤や苦悩を経験されたのでしょう。

その経験が、後半の円熟した文章に繋がっているのかもしれない、と感じました。

例として挙げられた曲を知らない問題

ボクが知っている阿久さんのヒット曲は、皮肉なことに、この本(1972年の部分)が書かれた「以降」に生まれたものがほとんどでした。

そのため、本書で「こういう狙いでこの詞を書いた」と例として挙げられる曲のほとんどが、ボクにはピンと来ない、という事態に陥りました。

知っている曲の解説があれば、もっと興奮し、楽しめたはずなのに…と、ここは少し残念でした。

53歳(執筆時)のボクですらこうなのですから、ボクよりも若い世代の人にとっては、もはや壊滅的でしょう。

この世代間のギャップは、本書を手に取る上で覚悟しておくべき点かもしれません。

最大の収穫―作詞は小説執筆に近い

しかし、期待していた「技法」とは違ったものの、ボクにとって非常に大きな収穫もありました。

それは、作詞という行為は、小説を書く感覚に極めて近いのかもしれない、という気づきです。

第Ⅳ章のトレーニング編には、「ボキャブラリーを増やすこと」「いろんな本を読むこと」「人間や会話を研究すること」の重要性が説かれています。

これはまさに、小説家や、あるいはボクのようなブロガーにも通じる話です。

人を感動させるストーリー、人の心に刺さる言葉を生み出すためには、膨大なインプットと、日常に対する深い観察眼が不可欠なのだと思い知らされます。

様々な場所から引っ張ってきたネタ(インプット)を自分の中で咀嚼し、組み替え、そして余計な贅肉を極限まで削ぎ落としたもの。

それが「詞」なのでしょう。

歌謡曲の歌詞の素晴らしさは、あの限られた文字数の中で、聴き手の頭の中にパッと鮮やかな映像を浮かび上がらせるほどの情報を凝縮している点にあります。

それはまるで、3分間の短編映画を観ているかのようです。

文字数制限が(歌詞ほどには)ない小説よりも、むしろ作詞のほうが難しいのではないか。

ボクは以前、「小説はとても書けないけれど、詞ならボクでも書けるかも」と、どこかナメていました。

この本を読んで、その考えがいかに甘かったかを痛感させられました。

現代の歌詞と、阿久悠の言葉

時々、音楽番組を観ると、知らないアーティストばかりが並んでいます。

そして、「今、若い人の間でこの歌詞が共感されてヒットしています」と紹介されます。

ボクも「どんな歌詞なんだろう?」と耳を傾けてみるのですが、正直、「これのどこに共感しているのだろう?」と思ってしまうことの方が多いです。

それはおそらく、阿久悠さんが得意とした「情景描写」や「ドラマツルギー(物語性)」よりも、現代の歌詞は「感情の吐露」や「共感できるフレーズ」に重きを置いているからかもしれません。

作詞の達人である阿久さんですら、時代の変化についていけず、ヒットから遠ざかった時期があるのです。

ボクが現代の歌についていけないのも、致し方ないことなのだろうと思えました。

文章を書くための準備

日頃から作詞をするためのインプットが大事であることが語られているわけですが、作詞とは違う文章をお書きになる文章術の本があります。

こちらも膨大なインプットの果に良質なアウトプットをする方法が書かれたものです。

何も小説家でなくとも仕事で文章を欠かなくてはならない方も多いでしょうから、大変参考なる本です。

まとめ|時代を超えて「表現」の本質を学ぶ

期待していた「作詞の技法」は学べませんでしたが、この本を読んで得られたものは、確かにありました。

それは、作詞という行為が、ひいては文章で何かを表現するという行為が、いかに深く、地道な観察力と膨大なインプット、そして言葉を研ぎ澄ます技術を必要とするかを理解できたからです。

ボクが目指す「文章力向上」の根っこにある部分を、阿久さんに教わった気がします。

それでもやはり、阿久悠さんは偉大です。

案外、今をときめく売れっ子のアーティストが、阿久さんの遺した未発表の詞にメロディをつけて歌ったら、現代の若者の心にも響き、大ヒットするかもしれません。

現に、最近は昭和歌謡の魅力に気づき、好んで聴く若者も増えていると聞きます。

中島みゆきさんが「時代」で歌っていたように、時代は回るのかもしれません。

文章力を磨きたいという動機で本書を手に取ったボクですが、表現の本質的な部分は、時代を超えて変わらないのだと気づかされました。

もしあなたが阿久悠さんの作品が好きで、昭和歌謡がどのように作られていたのか、その黄金時代の熱気に興味があるならば、この本は読んでみる価値が十分にあります。

作詞家という職業の「哲学」に触れられる、貴重な一冊です。

それではまた。

ありがとう!

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