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【読書感想文】花房観音『すきもの』感想|欲望に生きる女たちが暴く「多様性」という幻想

元気ですか〜!?

どうも、ろけねおです。

今回読みました本はこちらでございます。

すきもの

タイトルの通り、登場人物たちはみな「好き者」つまり、愛や欲望に正直な人たちです。

阿部定事件や映画『愛のコリーダ』を思わせるような、

濃密で官能的、そして人間臭さに満ちた作品でした。

女性たちが語る「彼女」の物語

『すきもの』は、ひとりの女性を中心に物語が展開します。

ですが面白いのは、その主人公自身の視点では語られず、彼女に関わった複数の女性たちの語りによって、彼女の姿が少しずつ浮かび上がってくるところです。

語り手の立場、年齢、思想、生活環境、そうした背景が違えば、同じ女性を語っているはずなのに、その印象はまったく異なります。

自由奔放に見えたり、傲慢に見えたり、どこか哀しげに映ったり。

でも読み進めていくうちに、「ああ、どれも“彼女”の一面なんだな」と気づかされます。

人間って、他者の視線を通すことで多面体のように見える。その構造自体が、この作品の大きな魅力だと思いました。

「多様性」への疑念と共感

この作品を読んでいてボクが強く感じたのは、「みんな違ってみんないい」という言葉への疑問です。

最近はよく耳にしますが、本当にそれを信じている人って、どれだけいるのでしょう?

「みんな違ってもOK」と言いながら、実際には自分の“正しさ”に当てはめて他人をジャッジしてしまっている人も多い気がします。

この作品には、そんな建前と本音のギャップがしっかり描かれていて、ボクにとってはそれがすごく痛快でした。

特に「教育」や「指導」といった立場にある女性が、正しさを振りかざして「こうあるべき」と語る姿には、ゾクっとするリアリティがありました。

ボク自身もそういう場面を人生で何度か見てきたので、思わずニヤリとしてしまいました。

欲望に正直な女性たちの姿に魅了された

花房観音さんが女性作家だからこそ描ける、女性たちの欲望と本音がこの作品には詰まっています。

登場する女性たちは、性的に奔放であったり、人間関係にだらしなかったりしますが、どこか憎めない。

そして何よりも、生き生きしているのです。

欲望に忠実で、言い訳をしない。その潔さに、ボクはむしろ爽快感すら覚えました。

これは単なるエロ小説ではありません。

エロスを通して人間の矛盾や業、そして生の本質を描き出した、知的な読み物です。

男性たちは道化として描かれる。でもそこに真実がある

作中では、男性たちがどこか滑稽で哀れな存在として描かれています。

これは男性であるボクから見ても「その通りだな」と思わず笑ってしまうような描写ばかりでした。

女性の魅力に振り回され、自分の価値を見失い、それでも彼女たちを求めてしまう。

男の弱さや愚かさが露骨に描かれていて、自己投影しつつも笑わざるをえない。

バカにされているのに、それがなぜか気持ちいい、そんな奇妙な読書体験でした。

「すきもの」とは、愛に生きること

『すきもの』というタイトルの意味は、単なる「好色な人」というだけではありません。

自分の「好き」に正直であること、欲望に抗わないこと、そしてその結果としての孤独や痛みにも向き合うこと、そうした覚悟を持った人間の姿を、この物語は描いているように感じました。

ボクはこの作品を読み終えて、「人を好きになるって、きれいごとじゃ済まない」と改めて思いました。

そして、それでも人は誰かを求め、欲望に身を委ねてしまう。

そんな人間のリアルが、この小説には詰まっています。

愛や欲望について少し考えたい人、他人の目を通して“自分”を見つめ直したい人には、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

それではまた。

ありがとう!

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